臨床検査の役割 ― 診断を裏付ける科学の目
臨床検査は、医師が病気を診断・治療する際に不可欠な「科学的根拠」を提供するものです。
症状や問診だけでは見えない体内の状態を数値や画像で可視化し、病気の有無や進行度を客観的に把握できます。これにより「仮説としての診断」を裏付ける、あるいは修正する科学の目としての役割を果たします。
臨床検査は大きく分けて
①一般的な健康チェック(健康診断)②包括的な全身精査(人間ドック)③特定臓器に焦点を当てた精密検査(専門ドック) の三段階に整理できます。
健康診断とは?
健康診断は「体調の基本チェック」
健康診断は、会社員や公務員に対して法律で義務付けられている場合もある、基本的なチェックです。身長・体重、視力や聴力、血圧、尿や血液の検査、胸部X線や心電図など、体の状態を一通り確認するのが中心です。
比較的短時間で受けられ、費用も会社や自治体の負担で安価なことが多いのが特徴です。
法的根拠:労働安全衛生法に基づき、事業者が従業員に年1回以上実施する義務がある。
対象:常勤労働者が中心。特定の有害業務従事者には「特殊健康診断」も。
内容
- 身体計測(身長・体重・BMI、腹囲)
- 血圧測定
- 尿検査(蛋白・糖・潜血)
- 血液検査(貧血、肝機能、脂質、血糖など)
- 胸部X線、心電図など
役割:疾病の早期発見、労働災害予防、生活習慣病のリスク評価。
人間ドックとは
人間ドックは「全身を詳しく調べる精密検査」
人間ドックは自分の意思で受ける任意の精密検査です。健康診断で行う基本的な検査に加え、腹部エコーや胃の内視鏡、便潜血検査、大腸がん・心臓病・脳疾患のスクリーニングなどを組み合わせ、生活習慣病やがんをより早く見つけることを目的としています。必要に応じてMRIやPET-CT、骨密度測定、婦人科や前立腺の検査などオプションを追加することもできます。
費用は健康診断に比べて高額
一般的に3万円から10万円ほどかかりますが、健康保険組合や自治体から補助が出る場合もあります。受診の頻度は、健康診断は年1回が基本、人間ドックは2~3年に1回、生活習慣病のリスクが高い人は毎年受けるのが望ましいとされています。
位置づけ
法律上の義務ではないが、日本独自に発展した「任意型の包括的健康チェック」。40歳以降やリスクのある層に推奨。
特徴
- 健診よりも検査項目が広範(腫瘍マーカー、腹部エコー、胃内視鏡、大腸検査など)。
- 生活習慣病やがんの包括的スクリーニングを意図。
- 複数日かけるコースでは、脳MRI・心臓CTなど高度画像診断を組み込む場合も。
役割:潜在的な病気の早期発見・予防医学の実践。健康長寿の確保に向けた“先手医療”。
専門ドックとは?
専門ドックは、特定の臓器や疾患にフォーカスして詳しく調べる検査です。
一般的な人間ドックにプラスする形で利用されることが多く、「気になる部位を徹底的にチェックしたい」というニーズに応えています。
対象:家族歴、既往歴、症状などで特定のリスクが高い人。
主な種類
- 脳ドック:MRIやMRAで脳梗塞・動脈瘤・脳萎縮をチェック
- 心臓ドック:心エコー・冠動脈CT・心電図で虚血性心疾患や不整脈を確認
- 肺ドック:低線量CTで肺がんやCOPDを早期発見
- 消化器ドック:胃・大腸内視鏡、膵臓や肝臓のエコーでがんを重点チェック
- 乳がん・子宮がんドック:マンモグラフィ、乳腺エコー、子宮頸がん検査
- 腎臓ドック:尿検査・腎エコー・血液検査で腎機能を詳しく評価
費用と受け方の違い
- 人間ドック:3万〜10万円ほど(健保や自治体の補助が出ることも多い)
- 専門ドック:数千円〜数万円程度(オプションで追加するケースが多い)
役割:高精度の診断によるリスク層の早期介入。症状が出る前に“未病”を捕捉。
多くの医療機関では、人間ドック+専門ドックをセットで受けられる仕組みが整っています。
身体測定と基本チェック
健康診断の最初に行うのが 身体測定と基本チェック。
「身長や体重なんて毎年同じだから大丈夫」なんて思っていませんか?
実はここで測る BMI・腹囲・血圧 は、生活習慣病のリスクを早期にキャッチするための大切なサインなのです。
身長・体重・BMI(体格の量)
BMIは 体重(kg) ÷ 身長(m)² で求めます。
たとえば、身長170cm・体重65kgなら…結果:22.5
計算式:65 ÷ (1.70 × 1.70)
| BMI区分 | 目安 | 受け止め方・注意 |
|---|---|---|
| 18.5未満 | 低体重 | 栄養不足、骨密度低下リスク。やせ型でも糖代謝異常が隠れることあり。 |
| 18.5–24.9 | 普通体重 | 最も疾病リスクが低い層。22前後が“標準体重”の目安。 |
| 25以上 | 肥満 | 生活習慣病リスク上昇(高血圧・糖尿病・脂質異常・睡眠時無呼吸など)。 |
落とし穴:BMIは“量”の指標。筋肉が多い人は過大評価/高齢者は過小評価になりやすいので、次の腹囲で脂肪のつき方を確認。
腹囲(脂肪の質と分布=内臓脂肪の手がかり)
測り方:おへその高さで、軽く息を吐いて測定。
| 判定ライン | 意味 | とくに気をつける病気 |
|---|---|---|
| 男性85cm以上 / 女性90cm以上 | 内臓脂肪が多いサイン(CT換算で内臓脂肪面積≳100cm²の目安) | 高血圧、2型糖尿病、脂質異常症、脂肪肝、動脈硬化 |
隠れ肥満:BMIは普通でも腹囲が大だと内臓脂肪多め=リスク高。まずは腹囲−3〜5cmを目標に。
血圧(生活習慣病の入口)
基本:理想はおおむね <120/80 mmHg。
診察室の高血圧:≥140/90 mmHg/家庭血圧の高血圧:≥135/85 mmHg。
| 分類(診察室) | 収縮期(上) | 拡張期(下) | 次の一手 |
|---|---|---|---|
| 正常 | <120 | <80 | 維持(食事・運動・睡眠) |
| 正常高値 | 120–129 | <80 | 生活改善+家庭血圧で経過 |
| 高値 | 130–139 | 80–89 | 家庭血圧を1–2週間、平均で評価 |
| 高血圧Ⅰ度 | 140–159 | 90–99 | 生活改善+医療機関で評価 |
| Ⅱ度 | 160–179 | 100–109 | 受診(薬物療法検討) |
| Ⅲ度 | ≥180 | ≥110 | 速やかに受診/緊急評価 |
正しい測り方:①測定前5分安静 ②腕は心臓の高さ ③両腕測定で高い方を採用 ④家庭は朝夕に数日測って平均。
白衣高血圧/仮面高血圧を見逃さないため、家庭血圧はとても重要です。
基本チェック(各検査の目的・見つかる病気・次の一手)
■4-1. 視力・聴力
| 項目 | 何を見る | 注意すべき病気・状態 | 次の一手 |
|---|---|---|---|
| 視力 | 屈折異常、矯正の必要性 | 近視・乱視、白内障、緑内障のスクリーニング | 視力低下が進む/見えづらさが持続→眼科で精査 |
| 聴力 | 高音域低下、左右差 | 騒音性難聴、加齢性難聴、滲出性中耳炎 | 左右差や耳鳴り・めまい併発→耳鼻科へ |
■4-2. 尿検査(蛋白・糖・潜血)
| 異常 | 何が疑われる? | 補足・フォロー |
|---|---|---|
| 蛋白+ | 糖尿病性腎症、CKD、発熱・運動後の一過性 | 尿アルブミン/Cr比や再検で持続性を確認 |
| 尿糖+ | 糖尿病、腎性糖尿 | 血糖・HbA1cで評価。薬の影響(SGLT2阻害薬)も考慮 |
| 潜血+ | 尿路結石、膀胱炎、腎炎、腫瘍 | 月経・激運動後の偽陽性に注意。尿沈渣や画像で精査 |
■4-3. 血液検査
| グループ | 主な項目 | 何が分かる | 注意すべき病気・状態 |
|---|---|---|---|
| 貧血 | RBC, Hb, Ht, MCV | 貧血の有無・タイプ | 鉄欠乏、B12/葉酸欠乏、慢性炎症、出血 |
| 肝機能 | AST, ALT, γ-GTP, ALP, Bil, Alb | 肝細胞障害・胆道系障害 | 脂肪肝、肝炎、胆石・胆道うっ滞、薬剤性 |
| 脂質 | LDL, HDL, TG, non-HDL | 動脈硬化リスク | 家族性高コレステロール血症、メタボ |
| 糖代謝 | 空腹血糖, HbA1c | 糖尿病の有無・コントロール | かくれ糖尿、IFG/IGT(境界型) |
| 腎機能 | Cr, eGFR, 尿酸 | 腎の“ろ過力”、痛風リスク | CKD、脱水、薬剤性腎障害 |
コツ:単独値で決めつけず、前年との変化(デルタ)とセット(パネル)で読む。
■4-4. 心電図(ECG)
- わかること:不整脈(速い・遅い・不規則)、心筋虚血や梗塞の兆候、心肥大、伝導障害。
- 要注意のサイン:失神・めまい・動悸を伴う徐脈/頻脈、ST上昇/深いST低下、Mobitz II・完全房室ブロック。
- 次の一手:ホルター心電図(24h)、心エコー、採血(電解質・甲状腺)で原因精査。
■4-5. 胸部X線(レントゲン)
- わかること:肺炎・結核・腫瘍の影、胸水、気胸、心拡大。
- 限界:小結節や血管系疾患は苦手。
- 次の一手:所見やリスクに応じ胸部CT、心エコー、喀痰検査へ。
■血液検査で分かる 「赤血球系の検査値」
健康診断で必ず含まれる「血液検査」の中でも、赤血球やヘモグロビンに関する項目は 貧血や多血症の発見、全身の酸素運搬能力の評価 に直結する重要な指標です。ここでは、Hb(ヘモグロビン)、RBC(赤血球数)、Hct(ヘマトクリット)、MCV、MCH、MCHCについて詳しく解説します。
Hb(ヘモグロビン)
ヘモグロビンは赤血球の中に含まれるタンパク質で、酸素を全身に届ける「運搬役」です。血液の酸素供給力を最もよく反映する指標であり、低値は酸素不足による疲労や動悸につながります。
- 基準値:男性 13.1〜16.3 g/dL、女性 12.1〜14.5 g/dL
- Hb低値=酸素運搬能力不足 → 疲労・動悸・息切れ
- Hb高値=血液濃縮や赤血球増加 → 血栓リスク
- 判定は Hb だけでなく MCV(大きさ)、MCHC(色)、網赤血球、WBC・PLT を合わせて読むとより正確。
ヘモグロビン異常と関連疾患
| Hbの状態 | 疑われる病気 | 特徴・ポイント |
|---|---|---|
| 低い(貧血) | 鉄欠乏性貧血 | 最も多い。小球性・低色素。月経過多、消化管出血、栄養不足。 |
| 巨赤芽球性貧血(VitB12/葉酸欠乏) | 大球性。過分葉好中球。B12欠乏では神経症状(しびれ、歩行障害)。 | |
| 溶血性貧血 | 正球性。網赤血球↑、黄疸(間接ビリルビン↑)、脾腫。自己免疫性や遺伝性(球状赤血球症など)。 | |
| 再生不良性貧血 | 骨髄で造血できない。赤血球だけでなく白血球・血小板も低下(汎血球減少)。 | |
| 腎性貧血 | 慢性腎臓病でEPO産生↓。正球性。 | |
| 急性出血性貧血 | 外傷・消化管出血など。初期はHb正常でも数時間後に低下。 | |
| 高い(多血) | 真性多血症(PV) | 骨髄の異常(JAK2変異)。血液がドロドロになり血栓リスク↑。皮膚の紅潮、掻痒感。 |
| 二次性多血症 | 慢性低酸素:COPD、睡眠時無呼吸、高地生活、心疾患。EPO↑。 | |
| 相対的多血 | 脱水(下痢・嘔吐・発汗・利尿薬)。血漿が減り見かけ上Hb↑。 | |
| EPO産生腫瘍 | 腎がん、肝がんなど。EPO過剰分泌によりHb↑。 |
RBC(赤血球数)
赤血球は酸素を運ぶ「容器」のような存在です。血液1µLあたりの数を示し、数が少なければ酸素運搬不足、多ければ血液が濃くなり血栓のリスクが高まります。
- 基準値:男性:435〜555(10⁴/μL)女性:386〜492(10⁴/μL)
- 赤血球数が少ない → 「貧血」系の病気が多い
- 赤血球数が多い → 「多血症・低酸素・脱水」がキーワード
- 評価するときは Hb(ヘモグロビン)、Hct(ヘマトクリット)との組み合わせ が重要
Hct(ヘマトクリット)
Hctは血液全体の中で赤血球が占める割合を表します。血液の濃さや粘りを示す値で、Hbと強く関連しています。一般的に「Hct ≈ Hb×3」で計算され、ずれが大きければ測定干渉を疑います。
- 基準値:男性 40.7〜50.1%、女性 35.1〜44.4%
- Hct高値 → 多血症、脱水、慢性肺疾患、高地順応
- Hct低値 → 貧血、出血、溶血、造血不良、妊娠
MCV(平均赤血球容積)
MCVは赤血球の「大きさ」を示す指標で、貧血のタイプ分類に使います。
- 基準値:80〜100 fL
- 分類と関連疾患
- 小球性(80未満):鉄欠乏性貧血、サラセミア、慢性炎症性貧血
- 正球性(80〜100):急性出血、溶血性貧血、腎性貧血、再生不良性貧血
- 大球性(100超):ビタミンB12欠乏、葉酸欠乏、肝疾患、アルコール多飲
MCH(平均赤血球ヘモグロビン量)
MCHは赤血球1個あたりにどれくらいヘモグロビンが含まれているかを示します。MCVと同じ方向に動くことが多く、鉄欠乏で低下し、大球性貧血で上昇します。
- 基準値:27〜34 pg
- MCH低値 → 小球性・低色素性貧血の代表(鉄欠乏性、サラセミア、慢性炎症)
- MCH正常 → 正球性貧血(出血・溶血・腎性・再生不良性)
- MCH高値 → 大球性貧血(B12/葉酸欠乏、肝疾患、アルコール、多系統異形成など)
MCHと関連する病気一覧表
MCHC(平均赤血球ヘモグロビン濃度)
MCHC(平均赤血球ヘモグロビン濃度) は、赤血球の色の濃さ=ヘモグロビンがどれくらい詰まっているかを示す指標です。
- 基準値:32〜36 g/dL
- MCHC低値 → 鉄欠乏性貧血、慢性炎症性貧血、サラセミア
- MCHC正常 → 多くの正球性貧血(出血・溶血・腎性・再生不良性)
- MCHC高値(まれ) → 遺伝性球状赤血球症、寒冷凝集素症、脱水や測定誤差
■血液検査で分かる「肝機能の指標」
AST(GOT)/ALT(GPT)
ASTとALTは、肝臓の細胞に多く含まれる酵素で、細胞が壊れると血液中に漏れ出します。そのため血液検査で数値が高い場合は「細胞が壊れている=障害がある」ことを意味します。
AST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)
肝臓・心筋・骨格筋などに存在。肝臓以外(心臓や筋肉)でも上がる。
ALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)
主に肝臓に存在。肝臓特異性が高い。この2つは肝細胞に多く含まれる酵素で、細胞が壊れると血中に出て数値が上昇します。
- 軽度上昇:脂肪肝や飲酒、薬剤など日常的な要因で見られることが多く、自覚症状がないまま健康診断で見つかるケースが多いです。
- 中等度〜高度上昇:ウイルス性肝炎や薬物中毒、ショックによる虚血性肝炎などで急激に上がります。数百〜数千U/Lの上昇は重症肝障害を示唆します。
- AST優位(比>2):アルコール性肝障害の典型で、慢性肝疾患や肝硬変の進行でも見られます。また心筋梗塞や筋肉疾患でもASTが目立って上がります。
一方で、AST・ALTが低いことは「良い」意味とは限りません。
- 末期肝不全では肝細胞が減ってしまい、酵素を放出できないため逆に低値になります。
- 栄養不良やビタミンB6欠乏でもALTが下がることがあります。
- 高齢者や透析患者では筋肉量や肝細胞量の低下で基準値より低く出ることがあります。
- 基準値
- AST:30以下U/L
- ALT:30以下U/L
- 運動:筋肉が負荷で微細損傷 → ASTが少し上がる
- 飲酒:アルコール代謝で肝細胞が刺激 → ALTやγ-GTPが一時的に上がる
- 食事・薬剤:薬やサプリ、脂肪の多い食事でも軽度変動することあり
γ-GTP(ガンマグルタミルトランスペプチダーゼ)
γ-GTP(ガンマグルタミルトランスペプチダーゼ)は、肝臓や胆道に多く存在する酵素で、血液検査では肝機能やアルコール摂取の影響を調べる重要な指標です。
特にアルコールに敏感で、飲酒による肝臓への負担を反映しやすいため、健康診断では「お酒の飲みすぎチェック」のような役割も果たします。
- 肝臓~胆道(胆のう・胆管)に多い酵素。グルタチオン代謝(γ-グルタミル基の転移)に関わります。肝・胆道がダメージを受けたり、アルコールや一部薬剤で誘導されると血中で上がりやすくなります。
- 基準値 50 U/L
高くなる主な原因
- アルコール(最頻)
習慣飲酒で上昇しやすい“酒に敏感な酵素”。断酒で低下することが多い。 - 肝疾患:脂肪肝(ALD/NAFLD)、肝炎、肝硬変 ほか。
- 胆道系トラブル:胆石・胆のう炎・胆管炎・胆汁うっ滞(閉塞性黄疸など)。
- 薬剤・酵素誘導:一部の抗てんかん薬など肝ミクロソーム酵素誘導薬、アルコール、一部ハーブや食品でも上がり得る(特異度が下がる)。
- うっ血肝(心不全):肝うっ血でγ-GTPやAST/ALTが上がることがあります。
ALP(アルカリフォスファターゼ)
ALPは、体のさまざまな臓器に存在する酵素で、特に 肝臓・胆道・骨・小腸・胎盤 に多く含まれています。
アルカリ性の環境で働き、リン酸化合物を分解する酵素です。
血液中のALP値は、肝臓や胆道の状態、骨の代謝の活発さ を反映する重要な指標です。
- 基準値
38〜113 U/L(施設差あり)
- ALPは他の検査との組み合わせが重要
ALPは「どの臓器由来か」を単独では判断できません。
そのため、他の肝機能検査やマーカーと組み合わせて評価します。
- ALP↑+γ-GTP↑ → 肝臓・胆道由来の可能性大
- ALP↑+γ-GTP正常 → 骨由来の可能性
- ALP↑+骨関連症状(骨痛・骨折など) → 骨疾患を疑う
■血液検査で分かる「腎機能の指標」
クレアチニン(Cr)
クレアチニンは、筋肉の中にある「クレアチン」という物質がエネルギー代謝の過程で分解されてできる老廃物です。
体内で作られる量は主に筋肉の量に左右され、1日の中での変動はあまり大きくありません。そのため、比較的安定した指標として利用できます。
腎臓では、このクレアチニンは 糸球体でほぼ自由に濾過されて尿に排泄されます。また、一部は尿細管からわずかに分泌されるため、厳密には実際の腎機能(GFR:糸球体ろ過量)よりやや低下を小さく見積もってしまう傾向があります。
つまり、血液中のクレアチニン値を測ることで、腎臓が老廃物をどの程度しっかり処理できているか、つまり 腎臓のろ過機能を推測する代用マーカーとして役立つのです。
基準範囲(目安):男性:おおむね 1.00 mg/dL以下 女性:おおむね 0.70 mg/dL以下
クレアチニンが高いとき:血液中のクレアチニンが高い場合、腎臓のろ過機能が落ちて老廃物を排泄できていないことを意味します。代表的な原因は以下です。
- 急性腎障害(AKI):脱水、ショック、造影剤や薬剤(抗菌薬、NSAIDsなど)による腎障害
- 慢性腎臓病(CKD):糖尿病や高血圧による腎障害、慢性糸球体腎炎
- 尿路閉塞:結石や前立腺肥大による尿の流れの障害
- 筋肉量が多い人:必ずしも病気ではなくても高めに出ることがある
尿素窒素
尿素窒素は、体内でタンパク質が分解されるときにできる老廃物です。タンパク質はアミノ酸に分解され、その際に「アンモニア」が生じます。アンモニアは毒性が強いため、肝臓で「尿素」に変えられ、血液に乗って腎臓に運ばれ、尿として排泄されます。この「血液中の尿素の濃度」を反映しているのがBUNです。
- 基準値:一般に 8〜20 mg/dL が正常範囲とされます
🔹 尿素窒素が高いとき
腎機能低下:慢性腎臓病(CKD)、急性腎障害(AKI)
脱水:水分不足で血液が濃縮 → 相対的に上昇
高タンパク食・消化管出血:タンパク質や血液の分解で尿素産生が増える
発熱・やけど・ステロイド使用:代謝亢進で上昇
🔹 尿素窒素が低いとき
低栄養・低タンパク食
肝不全:アンモニアを尿素に変える力が低下 → BUN低下、逆に血中アンモニアは上昇
妊娠:循環血液量の増加により見かけ上低下
尿素窒素は、タンパク質代謝の最終産物であり、血液検査で測ることで 腎臓のろ過機能や体内の水分状態を推測できる 重要な指標です。
ただし、食事や脱水、肝機能などにも影響されるため、腎機能を正確に知るためには クレアチニンやeGFRと組み合わせて評価する ことが大切です。
eGFR
eGFRは、腎臓がどのくらい血液をろ過できるかを推定した数値です。腎臓には「糸球体」というフィルターのような構造があり、血液中の老廃物や余分な水分をこしとって尿に排泄しています。そのろ過能力を 糸球体ろ過量(GFR) といいます。
ただし、正確なGFRを測定するには特殊な検査(イヌリンクリアランスなど)が必要で、日常診療には向きません。そこで、一般的な血液検査で測定できる 血清クレアチニン値・年齢・性別 を用いて計算する eGFR(推算GFR) が広く使われています。
eGFRでわかること
- 腎臓が老廃物をどれくらい処理できているか(腎機能の指標)
- 慢性腎臓病(CKD)の診断や進行度の分類
- 腎機能に応じた薬剤の投与量調整
基準値と判定
- 正常値:おおよそ 60.0mL/min/1.73m²以上
eGFRが低下するほど腎機能が悪化していることを意味します。
CKDのステージ分類(日本腎臓学会)では以下のように区分されます:
- G1:90以上(正常〜軽度低下)
- G2:60〜89(軽度低下)
- G3a:45〜59(軽度〜中等度低下)
- G3b:30〜44(中等度〜高度低下)
- G4:15〜29(高度低下)
- G5:15未満(末期腎不全、透析導入を検討)
- eGFRは、血液検査のクレアチニン値から計算される 腎機能の推定値 です。
数値が低いほど腎臓のろ過能力が低下しており、CKDの重症度分類や治療方針の決定に活用されます。
ただし、筋肉量や急性変化の影響を受けやすいため、尿検査や画像検査と併せて総合的に評価することが大切です。
■血液検査で分かる「脂質」
中性脂肪(トリグリセライド)
健康診断の結果で「中性脂肪が高め」と言われた経験はありませんか?
中性脂肪(トリグリセライド, TG)は体のエネルギー源として欠かせない存在ですが、数値が高すぎると血管や代謝に大きなリスクをもたらします。本記事では、中性脂肪の役割や基準値、上昇する原因、そして関連する病気について分かりやすく解説します。
基準値(空腹時血液検査)
- 正常値:30〜149 mg/dL
- 境界域高値:150〜199 mg/dL
- 高トリグリセライド血症:200 mg/dL以上
中性脂肪が上がる原因
- 食生活の乱れ:糖質の過剰摂取(白米・パン・お菓子)、アルコールの飲み過ぎ(特にビールや日本酒)、高脂肪食のとりすぎ
- 運動不足:脂肪が燃焼されず血中にTGが増加
- 肥満(特に内臓脂肪型肥満):脂質代謝が悪化
- 遺伝的要因:家族性高脂血症など
- 薬の影響:ステロイド、利尿薬、β遮断薬など
- 中性脂肪が高いと関わる病気
- 動脈硬化関連:動脈硬化、心筋梗塞・狭心症、脳梗塞
- 代謝・膵臓関連:脂質異常症、メタボリックシンドローム(高血圧・高血糖と合併しリスク増大)、急性膵炎(特に500mg/dL以上で危険性が高い)
総コレステロール(TC)=全体量のざっくり把握
- 中身:LDL+HDL+VLDL(中性脂肪由来)など、血中のコレステロールを全部まとめて見た値。
- 長所:検査が簡単・変動が少なく、全体像の大きなズレを捉えやすい。
- 短所:内訳が分からない。HDLが高くてもTCは高く見えるし、LDLが高くてもHDLが低ければTCは普通に見えることがある。
- 読み方:単独で結論は出さず、LDL・HDL・non-HDLとセットで解釈。
LDLコレステロール(悪玉)=動脈硬化の主犯
- 役割:肝臓→全身へコレステロールを配達。増えすぎると血管壁に沈着→プラーク形成。
- なぜ悪玉か:酸化・糖化されたLDLが血管壁の炎症を促進し、心筋梗塞・脳梗塞リスクと強く相関。
- 基準値:60~119mg/dL
- 上がりやすい原因:飽和脂肪酸・トランス脂肪酸、体重増加、甲状腺機能低下、ネフローゼ、遺伝(家族性高コレステロール血症)、一部薬剤。
- 注意:計算式(Friedewald:LDL=TC−HDL−TG/5)はTGが高いと不正確(TG≥400 mg/dLで不可)。このときnon-HDLや直接LDL測定を使う。
HDLコレステロール(善玉)=血管の清掃・保護役
- 役割:末梢の余分なコレステロールを肝臓へ回収(逆輸送)。抗炎症・抗酸化作用も。
- 低いほどリスク↑:<40 mg/dLは動脈硬化リスク上昇の目安。60以上は保護的とされることが多い。
- 下がる要因:喫煙、運動不足、内臓脂肪型肥満、高TG血症、糖尿病。
- 注意:極端に高いHDL(例:90–100以上)が常に超安全とは限らず、質の問題(機能不全HDL)も議論あり。HDL単独で安心せずLDL/HDL比やnon-HDLも見る。
non-HDLコレステロール=動脈硬化に関わる粒子の合計
- 定義/式:non-HDL=総コレステロール−HDL。
- 含まれるもの:LDL+VLDL+IDL+レムナント+Lp(a) など、アポBを持つ動脈硬化性リポタンパクの総量。
- 強み:
- 空腹でなくてもOK(非空腹採血で使える)。
- TGが高い人でも信頼性が落ちにくい(LDL計算が不安定な場面をカバー)。
- 基準値:90~149mg/dL
- 上がる理由:高LDL、高TG(メタボ・糖質過多・飲酒)、肥満、糖尿病、CKD、甲状腺機能低下。
- 関わる病気:脂質異常症・冠動脈疾患・脳梗塞など動脈硬化性疾患の総リスク評価に有用。残余リスク(LDLが下がっても残るリスク)を反映しやすい。
■血液検査で分かる「糖代謝」
空腹時血糖(FPG)
- 検査概要:8時間以上絶食した状態で測定する、最も基本的な血糖の数値です。 「いまの血糖コントロール」をストレートに反映します。
- 基準値:
・正常:70〜99 mg/dL
・境界型:100〜125 mg/dL
・糖尿病型:126 mg/dL以上 - 上がる理由:糖質の摂りすぎ、肥満(内臓脂肪)、運動不足、インスリンの分泌不全や抵抗性
- 関わる病気:糖尿病、メタボリックシンドローム、耐糖能異常
HbA1c(ヘモグロビンA1c)
- 検査概要:赤血球の中のヘモグロビンにブドウ糖が結合した割合を測定。
赤血球の寿命(約120日)を利用し、過去1〜2か月の平均血糖値 を映し出します。 - 基準値:
・正常:4.6〜5.6%
・境界域:5.7〜6.4%
・糖尿病型:6.5%以上 - 上がる理由:慢性的な高血糖、インスリン作用不良、食生活の乱れ、感染症やストレス
- 関わる病気:糖尿病、糖尿病性網膜症、腎症、神経障害(合併症リスクを予測)
随時血糖
- 検査概要:食事や時間を問わず、採血した時点の血糖値を測定します。 一瞬の状態を知ることができ、症状があるときの診断に使われます。
- 基準値:
・正常:〜139 mg/dL
・境界域:140〜199 mg/dL
・糖尿病型:200 mg/dL以上 - 上がる理由:食後の急激な血糖上昇、インスリン不足や抵抗性、感染症や心疾患などのストレス状態
- 関わる病気:糖尿病、高浸透圧高血糖症候群、糖尿病ケトアシドーシス
■血液検査で分かる「血清たんぱく」
栄養状態や肝臓・腎臓の健康度を知る大切な指標
総たんぱく(TP)
総たんぱくは、血清中に含まれるすべてのたんぱく質の合計値を表します。主に「アルブミン」と「グロブリン(抗体など)」から成り、体の栄養状態や肝臓のたんぱく合成能力、腎臓や消化管からの喪失の有無を総合的に反映します。
- 基準値:6.5〜7.9 g/dL
- 上がる理由:糖質の摂りすぎ、肥満(内臓脂肪)、運動不足、インスリンの分泌不全や抵抗性
- 関連する病気:
- 高値:多発性骨髄腫、慢性感染症、膠原病、慢性肝炎
- 低値:低栄養、肝硬変(合成低下)、ネフローゼ症候群(尿に喪失)、蛋白漏出性胃腸症
アルブミン(Alb)
アルブミンは血清たんぱくの約60%を占める主要成分で、肝臓で合成されます。血液の浸透圧を維持するほか、薬剤・ホルモン・脂肪酸などの運搬にも関わります。そのため、栄養状態や肝臓の合成能力を知る重要な指標となります。
基準値:3.9〜5.3 g/dL
アルブミンが高いとき
- 強い脱水(病的に高くなることはほとんどなく、見かけ上の上昇が多い)
アルブミンが低いとき(低アルブミン血症)
- 栄養不良(たんぱく質不足)
- 肝臓病(肝炎・肝硬変 → 合成力低下)
- 腎臓病(ネフローゼ症候群 → 尿中に流出)
- 蛋白漏出性胃腸症(消化管から喪失)
- 慢性炎症やがん(代謝・分解が亢進)
■血液検査で分かる「尿酸」
尿酸は、体の中でプリン体が分解されてできる最終産物です。通常は腎臓を通じて尿として排泄されますが、つくられる量が多すぎたり、排泄が追いつかないと血中にたまってしまい、高尿酸血症を引き起こします。
基準値は 男性で3.7〜7.0mg/dL、女性で2.5〜7.0mg/dLとされています。特に7.0mg/dLを超えると「高尿酸血症」と診断され、放置すれば痛風や腎障害のリスクが高まります。
尿酸値が上がる理由
- プリン体の過剰摂取:ビール、内臓肉、魚卵など
- アルコールの多飲:特にビール、日本酒、焼酎 → 尿酸産生を増やし排泄を妨げる
- 肥満・内臓脂肪型肥満:尿酸排泄低下、産生増加
- 腎機能低下:排泄障害
- 激しい運動:乳酸の増加で尿酸排泄が抑制
- 薬の影響:利尿薬、免疫抑制薬など
関わる病気
- 痛風
尿酸結晶が関節に沈着して炎症を起こす。典型的には足の親指の付け根に激痛。 - 尿路結石(尿酸結石)
尿中に尿酸が過剰に排泄されると、腎臓や尿管に結石ができる。 - 生活習慣病との関連
高尿酸血症は 高血圧・脂質異常症・糖尿病・メタボリックシンドローム と強く関わる。動脈硬化や心血管病のリスクを高める。 - 腎障害
尿酸の結晶が腎臓に沈着 → 慢性腎臓病の悪化要因。
■尿検査検査で分かる
尿検査は、腎臓や尿路の病気だけでなく、糖尿病や高血圧など生活習慣病のサインを早期に見つける大切な検査です。ここでは代表的な「尿たんぱく」「尿糖」「潜血」について詳しく解説します。
尿たんぱく
尿たんぱくは、本来血液中にあるたんぱく質が腎臓の「糸球体」や「尿細管」でろ過・再吸収されずに漏れ出したものを調べます。腎臓の働きや血管の健康状態を反映する重要な項目です。
基準値:正常:陰性(-)
陽性
- 腎臓病:慢性腎炎、ネフローゼ症候群、慢性腎不全
- 高血圧性腎症:高血圧による腎障害
- 糖尿病性腎症:糖尿病による腎障害
- 一過性要因:発熱、激しい運動、脱水、ストレス
基本は陰性が正常:治療中に陽性→陰性/減少は改善サイン。
尿糖
尿糖は、血液中の糖が腎臓で再吸収されずに尿へ漏れ出ているかを調べます。通常は血糖値が正常なら尿糖は出ません。
基準値:正常:陰性(-)
陽性
- 糖尿病:血糖値が高く腎臓で再吸収しきれない
- 腎性糖尿:血糖値は正常だが、尿細管の再吸収障害で尿糖が出る
- 一過性要因:ストレス、発熱、薬剤の影響
基本は陰性が正常 糖尿病治療中で尿糖が陰性化していればコントロール改善の目安になる。
潜血(尿潜血)
潜血は尿中に赤血球が混じっていないかを調べます。肉眼では分からないごく微量の血液も検出でき、腎臓から尿道までのどこかに障害があるサインになります。
基準値:正常:陰性(-)
陽性
- 腎臓の病気:糸球体腎炎、IgA腎症、多発性嚢胞腎
- 尿路の病気:膀胱炎、腎盂腎炎、尿路結石
- 泌尿器の腫瘍:膀胱がん、腎がん、前立腺がん
- 一過性要因:激しい運動、発熱後など
正常は陰性:治療により改善してきている場合は病態の安定を示す。
健康診断で行われる「画像・その他の検査」について
健康診断では、血液や尿などの基本検査に加えて、胸部X線・心電図・便潜血・呼吸機能検査といった「画像や生理機能のチェック」が行われます。これらは体の構造や働きを直接観察できるため、重要なスクリーニング(早期発見のためのふるい分け)として位置づけられています。
胸部X線
胸にX線を当てて撮影し、肺や心臓の状態を画像で確認する検査です。肺炎や結核、肺がんといった呼吸器の病気、さらには心臓の大きさ(心拡大)まで一度に調べられます。短時間で負担も少なく、呼吸器系の重大な異常を見逃さないための基本的な検査です。
■この検査で分かることは多岐にわたります。
肺では
肺炎や結核、COPDの過膨張、間質性肺疾患の陰影、腫瘍による結節や塊が見つかることがあります。
胸膜では
胸水(肋骨横隔膜角の鈍化やメニスカス状の液面)、気胸(肺紋理が消え外側に黒いスペースができる)が手掛かりになります。
心臓では
心胸郭比(CTR)から心拡大を推定し、うっ血性心不全のサインとして肺うっ血、Kerley B線、胸水を捉えられます。縦隔の幅の拡大は大動脈の異常や腫瘍、リンパ節腫大のヒントになり、骨折や横隔膜下の遊離ガス(消化管穿孔の疑い)なども確認できます。
読影の際はまず画質を確認します。十分に吸気できているか、体が回旋していないか、露出は適切かを見たうえで、気管・縦隔の位置、心陰影、左右肺野の透過性と陰影、肋骨横隔膜角や横隔膜の形、骨・軟部の異常と順にチェックします。
PA立位でのCTRは目安として50%未満が正常ですが、病棟での前後像(AP)は心臓が実際より大きく写るため、APのCTRで心拡大を判断しないのがコツです。
■限界と「次の一手」
一方、胸部X線には限界もあります。早期の小さな病変は肋骨や横隔膜、心陰影に重なって見逃されることがあり、血管系の病気(肺塞栓や大動脈解離)や微小な出血・間質性変化の詳細評価にはCT(必要に応じて造影CT)が適します。
肺がんのスクリーニングとしては胸部X線単独では感度が不十分で、喫煙歴などリスクが高い場合は低線量胸部CTが推奨される場面が多い点も押さえておきましょう。
健診で「心拡大の疑い」と言われたら、まず撮影条件(PAかAPか)を確認し、PAでCTRが高ければ心エコーで心機能・弁膜症・容量負荷の有無を評価します。「肺に影」と言われた場合は、陳旧性炎症やアーチファクトのこともあるため、過去画像との比較や側面像、必要に応じCTで確認します。
■被ばくと安全
被ばくは低く、胸部X線1回の実効線量はおよそ0.02 mSv(自然放射線の数日分程度)です。側面像を加えても低線量の範囲に収まります。妊娠中は必要性と代替手段(超音波・MRI)を検討し、実施する場合は防護と照射野の最小化を徹底します。小児ではALARA原則(できるだけ低線量で必要最小限)に基づいて撮影します。
- 撮影条件と基礎疾患を踏まえ、過去画像との比較で“本当に新しい異常か”を見極めるのがポイント。
- 胸部X線は短時間・低被ばく・安価で、肺炎・胸水・気胸・心不全・骨折など重大な異常の見逃し防止に最適。
- ただし微小病変や血管系疾患は苦手。疑いが強い・説明のつかない所見はCT/心エコー/喀痰検査などへ進む。
心電図
心電図は、胸と手足に電極を貼って心臓の電気活動を短時間に記録する、負担の少ない基本検査です。症状や問診だけでは見えにくい心臓の状態を波形として可視化でき、不整脈(脈が速い・遅い・不規則)、心筋への血流不足に伴う虚血や心筋梗塞の兆候、高血圧などで心筋が厚くなる心肥大、そして電気信号の通り道が滞る伝導障害を見つけるのに役立ちます。
数十秒で終わるシンプルな検査ですが、無症状の段階でも異常の手がかりが得られるため、早期発見にとても有用です。
一方で限界もあります。緊張や疲労、寒さによる筋肉の震えなどで一時的に波形が乱れることがあり、発作的に出現するタイプの不整脈はその瞬間を捉えないと写りません。
また、自動解析が「異常あり」と表示しても、体格や電極位置、日内変動などに左右される“疑似異常”のことも少なくありません。結果は必ず医師の目視読影と症状・背景情報を合わせて解釈します。
■「洞性徐脈(どうせいじょみゃく)」
健診でよく見つかる所見に「洞性徐脈」があります。これは心臓の司令塔(洞結節)が規則正しくリズムを作っているものの、拍動のテンポがゆっくりしている状態です。
心電図では毎拍に正常なP波が認められ、QRSの形も保たれ、拍と拍の間隔(RR間隔)が長く、全体として規則的に並ぶのが典型的です。安静時の心拍数は一般に60〜100回/分が目安ですが、運動習慣のある人では50〜60回/分でも生理的なことが多く、アスリートでは50回前後でも健康に経過することがあります。
ただし、心拍が極端に遅い(30回/分前後)場合や、めまい・ふらつき・息切れ・失神などの症状を伴う場合、あるいはP波が途切れる・リズムが不規則になるといった所見を伴う場合は注意が必要です。
こうしたケースでは、24時間心電図(ホルター心電図)や貼付型の長時間記録機で日常生活中のリズムを連続的に記録し、症状と波形の同時発生を確認して重症度を評価します。必要に応じて電解質や甲状腺機能の採血、睡眠時無呼吸の評価、心エコーによる心臓の形態・機能確認、内服薬(β遮断薬や一部のCa拮抗薬など)の見直しも行います。
■「検査当日」
特別な食事制限はないことが多いものの、直前の激しい運動や大量のカフェインは避け、寒さで震えない服装を心がけると良いでしょう。胸毛が濃い場合は電極の密着性を高めるために剃毛を提案されることがあります。金属アクセサリーは外し、深呼吸をしすぎず普段どおりにリラックスして臨むと、より正確な記録が得られます。
■「心拍数の基準」(安静時)成人の安静時心拍数は、次のように分類されます。
- 正常範囲:60〜100回/分
- 50〜60回/分:運動習慣のある人なら正常のことが多い
- 100回以上:頻脈(ひんみゃく)一般的には 60〜100回/分が安心ライン。
- 60回未満:徐脈(じょみゃく)
■「検査の注意」結果だけで不安になりすぎず、医師の説明を受けて判断することが大切です。
- 緊張や疲れで一時的に波形が乱れることもある
- 1回の心電図では出ない不整脈もある
- 「異常あり」と出ても必ずしも病気ではない(経過観察だけのケースも多い)
便潜血検査
■大腸がんやポリープを早期に発見するための スクリーニングの第一歩
便に目に見えない血液が混じっていないかを調べる検査です。これは大腸がんやポリープからの出血を早期に見つけるための重要なスクリーニングです。陽性が出た場合は、大腸内視鏡で直接観察し、必要ならその場でポリープ切除を行う流れになります。ただし、出血がない初期がんでは陰性になることもあるため、「陰性=完全に安心」とは言えません。
■検査方法
通常2日分の便を採取し、免疫学的便潜血検査という方法でヒトの血液(ヘモグロビン)を特異的に調べます。現在は食事制限は不要で、肉や野菜の影響を受けません。
■検査結果の解釈と注意点
結果が陰性なら便に血液は検出されず、大腸がんや大きなポリープの可能性は低いと考えられます。
一方、陽性の場合は必ずしもがんとは限らず、痔や炎症、良性のポリープによっても血が混じることがあります。そのため、陽性になったときは大腸内視鏡検査を受け、腸の中を直接観察して確認する必要があります。
内視鏡ではポリープをその場で切除できることもあり、早期がんであれば治療の成功率も高くなります。
ただし便潜血検査には限界もあります。出血していないポリープやがんは検出できず、逆に一時的な痔の出血などで陽性になることもあります。したがって、一度の検査だけで安心せず、毎年繰り返し受けることが大切です。
呼吸機能検査(スパイロメトリー)
健康診断で行う「呼吸機能検査」 ― 肺の働きを数値でチェック!
■呼吸機能検査で分かること
呼吸機能検査(スパイロメトリー)は、肺がどのくらい空気をためられるか、そしてどのくらい速く吐き出せるかを調べる検査です。鼻をクリップでふさぎ、マウスピースを使って大きく息を吸って吐き出すことで行われます。
この検査では、主に次の3つを確認します。
- 肺の大きさ(努力性肺活量:FVC) … 肺にどれだけ空気を入れられるか。①思いきり吸った後に全部吐き出した空気の量 ②肺のタンクの大きさを表す ③予測値の 80%以上が正常 減っていると「肺が広がりにくい」拘束性障害(間質性肺炎など)が疑われます。
- 吐き出す力(1秒量:FEV1) … 最初の1秒でどれだけ空気を出せるか。①思いきり吐いたとき、最初の1秒で出せる空気の量 ②吐き出すパワーを表す ③予測値の 80%以上が正常 減っていると「吐きにくい」閉塞性障害(COPD、喘息)が疑われます。
- 効率(1秒率:FEV1/FVC) … 全体のうち1秒で吐けた割合。①全体で吐いた空気(FVC)のうち、最初の1秒で出した割合 ②70%以上が正常 70%未満 なら、気道が狭くなる閉塞性障害(COPDなど)の可能性が高いです。
■関わる病気
- 閉塞性障害(吐きにくい病気)
代表例はCOPD(慢性閉塞性肺疾患)、喘息、気管支拡張症。
気道が狭くなり、息が吐きにくくなるのが特徴です。1秒率が下がります。 - 拘束性障害(吸いにくい病気)
代表例は間質性肺炎や肺線維症、胸郭の異常、肥満による呼吸障害。
肺や胸が硬くなって膨らみにくくなり、FVCが下がります。 - 混合性障害
吐きにくさと吸いにくさが両方出る状態。
例えばCOPDに肺線維症を合併したケースなどです。
■健康診断での役割
呼吸機能検査は、まだ症状が出ていない段階でも異常を見つけられるのが大きなメリットです。特に喫煙歴のある人ではCOPDの早期発見に役立ちます。息切れや疲れやすさといった軽い症状では気づきにくいため、客観的に肺の働きを数値で確認することがとても重要です。


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