温泉が持つ健康効果

ホルモン

温泉が持つ健康効果 ー❶:温熱作用ー

温泉に入ったときに感じる「ぽかぽか感」は、単にお湯が温かいからではなく、体にさまざまな温熱作用が起きているためです。

温泉に浸かると体温が上がり、血流が全身に広がります。この温熱作用は、細胞の働きを高め、新陳代謝を促すだけでなく、内臓や自律神経、循環器系にまで大きな影響を及ぼします。

温熱作用 ー1:基礎代謝の上昇ー

温泉の温熱作用によって体温が上がると、体は恒常性を維持しようとして呼吸や心拍、発汗の働きを強めます。その結果、基礎代謝量が高まり、エネルギー消費が増加します。一般に「体温が1℃上昇すると基礎代謝は約12〜13%高まる」といわれ、これは糖や脂質の燃焼効率が良くなることを意味します。日常的に冷えを感じやすい人や代謝の低下を自覚する人にとって、温泉入浴は効率的に体の代謝を底上げする自然の方法といえるでしょう。


温熱作用 ー2:エネルギー産生効率の改善ー

体温上昇と血流促進は、細胞内のエネルギー工場であるミトコンドリアにも良い影響を及ぼします。血管が拡張して酸素や栄養素が細胞に届きやすくなると、ミトコンドリアでのATP(細胞のエネルギー源)産生が効率化します。エネルギー供給がスムーズになれば、筋肉や脳を含む全身の働きが活発になり、疲労感の軽減や体力回復につながります。


温熱作用 ー3:老廃物の排泄促進ー

新陳代謝の亢進は、老廃物の処理にも直結します。血流改善と発汗の組み合わせによって、乳酸や尿酸などの代謝産物が体外へ排出されやすくなります。特に乳酸は、筋肉疲労の原因とされる物質であり、その除去がスムーズになることで「疲れが抜けやすい」感覚を得やすくなります。また、腎臓の血流も増加するため利尿作用が強まり、体内の余分な水分や塩分、老廃物の排出がさらに促進されます。


温熱作用 ー4:疲労回復とリフレッシュ効果ー

基礎代謝の上昇、エネルギー産生の効率化、老廃物排泄の加速という一連の流れは、最終的に「疲労回復」と「リフレッシュ感」へと結びつきます。温泉に入ったあとに体が軽く感じられるのは、代謝が活性化して体の内外が整った結果なのです。さらに、副交感神経が優位になることで筋肉の緊張が解け、心身ともにリラックスできるため、疲れを根本から癒す効果が期待できます。

温泉が持つ健康効果 ー❷:内臓諸器官への影響ー

温泉入浴の健康効果は、筋肉の疲労回復やリラクゼーションだけにとどまりません。体の深部にまで及ぶ温熱作用は、内臓の働き、自律神経のバランス、循環器系の調整といった重要な領域にも影響を与えます。ここでは、その仕組みと意義を詳しく解説します。


内臓諸器官への影響

ぬるめの湯(38〜40℃)では副交感神経が優位になり、胃腸の動きが活発化します。これにより蠕動運動が促進され、消化や吸収がスムーズに進みます。反対に熱めの湯(42℃以上)では交感神経が刺激され、消化は一時的に抑えられますが、覚醒作用が強まり、頭が冴えるような感覚を得られます。

肝臓では血流が増えることで解毒や栄養代謝が活性化し、アルコールや薬物などの処理能力が一時的に高まります。腎臓も同様に血流改善の影響を受け、老廃物や余分な水分のろ過が促され、利尿作用が強まります。さらに心臓では心拍数や心拍出量が増え、軽い有酸素運動をしたときと同じように循環器を鍛える効果が得られるのです。


内臓諸器官への影響 ー1:内分泌系への作用ー

温熱刺激はホルモン分泌にも影響を及ぼします。副腎からのコルチゾール分泌は調整され、過剰なストレス反応が抑えられます。また、成長ホルモンの分泌も促進され、細胞修復やタンパク質合成が助けられます。これにより、入浴後に体がすっきり軽くなるだけでなく、新陳代謝全体が後押しされ、体の再生力が高まるのです。


内臓諸器官への影響 ー2:自律神経系への作用ー

温泉は温度によって自律神経をコントロールできる点が大きな特徴です。

  • ぬる湯(38〜40℃):副交感神経が優位になり、心拍数や血圧が安定。深いリラックスが得られ、安眠にも効果的。
  • 熱めの湯(42℃以上):交感神経が刺激され、心拍数や血圧が上昇。覚醒作用と代謝促進が強く表れる。

このように、入浴温度を調整することで「リラックス」と「覚醒」を使い分けられるのが温泉の魅力です。


内臓諸器官への影響 ー3:循環器系への作用ー

温熱刺激によって皮膚血管が拡張し、血流量が増加します。これにより体熱の放散が進み、入浴直後に上がった血圧は次第に低下していきます。高血圧の改善につながるケースも報告されています。

また、心拍数や血液の送り出し量も増加するため、全身は軽い運動をしたときと同じ状態になります。さらに、湯の水圧によって下半身の血液が心臓に戻されやすくなり、一時的に心臓の負担は増えるものの、健康な人であれば問題なく調整され、心臓にとって良い刺激となります。


温泉が持つ健康効果 ー❸:活性酸素を軽減し免疫を高めるー

私たちの体はエネルギーをつくる際に「活性酸素(ROS)」を生み出します。少量であれば免疫や細胞シグナルに役立ちますが、過剰になると酸化ストレスとなり、老化や生活習慣病の原因となります。温泉入浴は、この活性酸素を減らしつつ、免疫細胞の働きを整える効果があることがわかってきています。

ー温熱作用で抗酸化力アップー

  • ぬるめ〜適温(38〜40℃)のお湯に浸かると体温が上がり、細胞は軽いストレスを受けます。この刺激が防御システムを動かし、SODやカタラーゼ、グルタチオンペルオキシダーゼといった抗酸化酵素が増えます。これにより体が本来持つ「酸化に対抗する力」が強化され、活性酸素の害が抑えられます。

ー泉質による効果ー

  • 炭酸泉(CO₂):二酸化炭素が皮膚から吸収され血管を広げ、血流を改善。酸素不足から生じる活性酸素を抑えます。
  • 硫黄泉(H₂S):硫化水素は抗酸化酵素を増やし、さらに活性酸素を直接消去する働きも持ちます。
  • 放射能泉(ラドン・トロン泉):微量の放射線が細胞を刺激し、抗酸化酵素の働きを高める「ホルミシス効果」を発揮します。
  • 単純温泉:特別なミネラル成分は少ないものの、温熱・静水圧・浮力作用が純粋に働き、免疫や抗酸化力の基礎力を引き出します。

ー血流改善による酸化ストレス低減ー

  • 温泉に浸かると水圧によって血液やリンパの流れが心臓に戻りやすくなり、さらに浮力の働きで筋肉の緊張がほぐれます。これによって全身の血流がスムーズになり、局所的な酸素不足が解消されます。その結果、酸素欠乏と再酸素化の過程で生じやすい活性酸素の発生が抑えられ、体内の酸化ストレスを軽減することにつながるのです。

ー免疫細胞の活性化ー

  • 入浴によって体温が上昇すると、自然免疫の中心であるNK(ナチュラルキラー)細胞の活性が高まり、ウイルスや腫瘍に対する防御力が強まります。さらに、ぬるめのお湯に浸かることで副交感神経が優位になり、炎症を引き起こすサイトカインの過剰分泌が抑えられ、慢性的な炎症やそれに伴う酸化ストレスの軽減につながります。加えて、入浴によって心身の緊張がほぐれると、ストレスホルモンであるコルチゾールの分泌が減少し、抑えられていた免疫機能が回復します。その結果、T細胞や抗体の働きが整い、体全体の免疫力が底上げされるのです。

研究では、温泉入浴を続けることで、血液や尿中の酸化ストレスマーカー(MDA、8-OHdG)が低下し、抗酸化酵素の働きが上昇することが確認されています。また、NK細胞活性の上昇や炎症マーカーの低下も報告されています。

温泉が持つ健康効果 ー❹:浮力作用ー

ー入浴における浮力作用と健康効果ー

水に浸かると、体はアルキメデスの原理に従って浮力を受けます。人体の比重は水とほぼ同じため、浴槽に肩まで浸かった場合、体重は実際の約9分の1まで軽く感じられます。腰までなら体重の半分、胸までなら3分の1程度に減少し、体は重力から解放されたように軽くなるのです。

ー筋肉や関節への影響ー

  • 体が軽くなることで、膝や腰、股関節にかかる負担が減少します。そのため関節痛や腰痛を抱える人でも動きやすく、筋肉の緊張もやわらいで血流が改善されます。また、重力負荷が少ないため関節の可動域が広がり、普段より大きな動作やストレッチが可能になります。

リハビリ・運動療法への応用

  • 浮力によって転倒の危険が減り、水中歩行や軽い運動が安全に行えるのも大きな特徴です。関節への負担が少なく、水の抵抗が適度な負荷となるため、筋力強化や持久力トレーニングに効果的です。脳卒中や神経疾患のリハビリでも、浮力の助けで歩行や運動がスムーズになり、回復を助けると報告されています。

ー循環・代謝への影響ー

  • 体の緊張がほぐれて血流が良くなることで、疲労回復や老廃物の排泄が促されます。浮力によって無理なく運動量を増やせるため、代謝改善やエネルギー消費の面でもプラスに働きます。

ー精神的な効果ー

  • 浮かぶような感覚は心身に安心感を与え、ストレスを和らげてリラックスをもたらします。副交感神経が優位になりやすく、安眠や精神的な安定にもつながります。また、水中での浮遊や揺れは平衡感覚を刺激し、神経系の調整にも役立つとされています。


温泉が持つ健康効果 ー❺:静水圧作用ー

ー温泉入浴における静水圧作用と健康効果ー

温泉に浸かると、体は水からの均等な圧力「静水圧」を受けます。水深1メートルで約100mmHgという圧力が加わり、肩まで浸かると胸やお腹にまで持続的な負荷がかかります。この静水圧作用は、私たちの循環・呼吸・体液の流れに大きな影響を及ぼします。

循環器系への影響

  • 水圧で下肢にたまっていた血液やリンパ液が心臓に押し戻され、静脈還流が増加します。その結果、心臓から送り出される血液量(心拍出量)が増え、全身の血流が改善します。入浴初期には血圧が一時的に上がることもありますが、次第に血管が広がり、むしろ降圧方向に働くこともあります。これにより高血圧や冷え性の改善に役立ちます。

呼吸器系への影響

  • 胸やお腹が圧迫されることで横隔膜が持ち上がり、肺活量はいったん減少します。吸うときに抵抗がかかるため、呼吸筋には自然なトレーニング効果が生まれます。呼吸は浅く速くなりがちですが、血流改善によって酸素の取り込みはしっかり保たれます。

ー体液循環への影響ー

  • 静水圧はむくみの改善にも有効です。下肢の血液やリンパの流れが促されるため、立ち仕事や下肢静脈瘤で起こる浮腫を軽減します。また、心拍出量と腎臓の血流が増えることで利尿作用が高まり、老廃物の排泄が進みます。

ー自律神経への影響ー

  • 体表への圧刺激は迷走神経に作用し、副交感神経の働きを高めます。入浴直後は交感神経が一時的に優位になりますが、温熱作用と組み合わさることで次第にリラックス反応が強まり、安眠効果にもつながります。

化学的作用(泉質による違い)

温泉の大きな特徴のひとつが「化学的作用」です。温泉水に含まれるさまざまな成分は、皮膚や粘膜から吸収されたり、揮発性成分が呼吸で取り込まれたりして、体に独特の生理作用をもたらします。泉質ごとに異なる作用があるため、昔から「何に効く湯」と呼ばれてきました。

ー温泉の化学的作用と皮膚吸収 ― 湯温・入浴時間・濃度の影響ー

  • 温泉の効能は温熱や浮力、静水圧だけでなく、含まれる成分そのものが体に働きかける「化学的作用」にも支えられています。ナトリウムやカルシウム、硫黄、炭酸などの成分は、入浴中に皮膚や粘膜を通じて少しずつ体内に吸収されます。特に分子の小さい二酸化炭素(CO₂)や硫化水素(H₂S)は皮膚から取り込まれやすく、血液中で作用を発揮することが知られています。

湯温が高い場合

  • お湯の温度が高くなると、皮膚の血流が増えて毛細血管が広がり、吸収された成分がより速く血液に運ばれます。さらに角質層がふやけて透過性が上がるため、成分が通りやすくなります。その分、皮膚への刺激も強まるので注意が必要です。

入浴時間が長い場合

  • 入浴時間が長くなるほど、成分が皮膚を通過する時間が増え、吸収量は自然と増えます。ただし長湯は発汗や血管拡張が強まり、体力を消耗するリスクもあるため、適度な時間が望ましいとされます。

ー電解質の濃度が高い場合ー

  • 温泉はミネラルを含む電解質溶液です。濃度が高いほど、濃度差による拡散が進み、成分の吸収は促進されます。塩分の濃い塩化物泉や酸性泉で「ピリピリ感」や「乾燥感」があるのは、この強い作用の表れです。
  • 温泉成分の吸収と作用
区分成分吸収経路特徴・作用
皮膚や呼吸から吸収されやすい成分二酸化炭素(CO₂)皮膚・呼吸皮膚から吸収され血中濃度上昇 → 酸素解離を促進し血流改善。高血圧・冷え性に有効。
硫化水素(H₂S)皮膚・呼吸分子が小さく透過しやすい。血管拡張作用と強い殺菌作用。皮膚病や水虫に効果。
ラドン(Rn)皮膚・呼吸放射能泉成分。低線量放射線によるホルミシス効果(免疫調整・抗酸化・鎮痛)。
トロン(²²⁰Rn)皮膚・呼吸ラドンの同位体。半減期は短いが、免疫刺激・抗酸化作用が期待され研究中。
微量ながら侵入する成分(イオン類)ナトリウム(Na⁺)・カリウム(K⁺)主に皮膚経皮吸収はごくわずか。体液バランスや神経・筋活動に関与。
塩化物イオン(Cl⁻)主に皮膚皮膚に塩膜を形成し保温・保湿。体内への吸収は少量。
炭酸水素イオン(HCO₃⁻)主に皮膚石けん様作用で皮脂を落とす。経皮吸収はわずか。
硫酸イオン(SO₄²⁻)主に皮膚吸収は極めて少ない。主に飲泉で腸管に作用し便通改善。

精神的効果

ー温泉入浴の精神的効果 ― リラクゼーションとストレス緩和ー

  • 温泉入浴は、温熱や静水圧、浮力などの物理的作用や、泉質による化学的作用だけでなく、私たちの心に大きな影響を与える「精神的効果」も持っています。リラクゼーションやストレス緩和といった心理的な作用は、体と脳の両面から説明することができます。

ー自律神経を整えるー

  • ぬるめの湯(38〜40℃)に浸かると、副交感神経が優位になり、心拍数や血圧が下がり、体が落ち着きます。反対に熱めの湯(42℃以上)は交感神経を刺激して覚醒を促します。つまり、入浴は温度を調整することで、リラックスにも気分転換にも活用できるのです。

ストレスホルモンを抑える

  • 入浴によって全身の緊張がほぐれると、ストレス反応を担う「コルチゾール」の分泌が抑えられます。その一方で、脳内では快感や鎮痛に関わるβエンドルフィンなどが増え、不安や緊張を和らげる働きが高まります。こうした内分泌の変化が、温泉の「癒やし感」を裏づけています。

ー脳と心の再調整ー

  • 温泉につかると、温かさや浮遊感といった心地よい感覚が脳の警戒システムを鎮め、安心感が広がります。前頭葉や島皮質といった脳の領域が「体の中の状態」を感じ取り直し、情動の安定をもたらすと考えられています。

環境と心理的要因

  • 温泉は「癒やしの場所」としての期待やイメージも大きな効果を持ちます。脱衣、入浴、休憩という一連の流れが「日常から切り替わる儀式」となり、心がリセットされやすくなります。さらに自然の景観や静けさ、他者との語らいも、ストレスの緩和や安心感を後押しします。

睡眠への効果

  • 就寝の1〜2時間前に入浴すると、体温が一度上がったあと自然に下がる流れが整い、深い眠りにつながります。これは温泉が「快眠習慣」に効果的とされる理由のひとつです。

泉質別効能と入浴法

  • 泉質別効能と入浴法一覧表
泉質(読み方)主成分主な効能入浴法のポイント
単純温泉(たんじゅんおんせん)成分が薄い(1g/kg未満)疲労回復、ストレス緩和、不眠改善ぬるめ(38〜40℃)で15〜20分。高齢者や子どもにも安心
塩化物泉(えんかぶつせん)NaCl、CaCl₂冷え性、外傷回復、皮膚保湿40℃前後で10〜15分。入浴後は洗い流さず自然乾燥
炭酸水素塩泉(たんさんすいそえんせん)(重曹泉)NaHCO₃美肌効果、皮膚疾患、動脈硬化予防38〜40℃で10〜15分。入浴後は軽く拭き取り、保湿ケア
硫酸塩泉(りゅうさんえんせん)CaSO₄、Na₂SO₄外傷・火傷回復、動脈硬化、高血圧40℃前後で10分程度。短時間反復浴がおすすめ
含鉄泉(がんてつせん)Fe²⁺貧血改善、冷え性鮮度が大切。40℃で短時間。飲泉と併用すると効果的
硫黄泉(いおうせん)H₂S、硫黄イオン皮膚病、水虫、高血圧、血流改善38〜40℃で短時間。換気に注意、長湯は避ける
酸性泉(さんせいせん)pH3以下(遊離酸)皮膚病、水虫、殺菌作用5〜10分の短時間浴。入浴後は真水で洗い流す
炭酸泉(たんさんせん)(含二酸化炭素泉)CO₂血流改善、高血圧、心疾患、冷え性36〜38℃で15〜20分。低温長湯が効果的
放射能泉(ほうしゃのうせん)(ラドン・トロン泉)Rn、²²⁰Rn免疫調整、鎮痛、抗酸化、リウマチ・痛風37〜40℃で10〜15分。換気を良くし反復浴
含アルミニウム泉(がんあるみにうむせん)(ミョウバン泉)Al³⁺湿疹、皮膚炎、アトピー緩和5〜10分の短時間浴。入浴後は洗い流す

泉質別効能と「美人の湯」について

温泉は含まれる成分によって効能が異なり、とりわけ「美人の湯」と呼ばれる泉質は、肌に優しく美容効果をもたらすことで知られています。以下に代表的な泉質と特徴を整理します。

美人の湯 1:ー単純温泉ー

  • 成分濃度が比較的低く、刺激が少ないのが特徴です。弱アルカリ性(pH8.0以上)の場合、角質をやわらかくし、入浴後に肌がすべすべと感じられます。敏感肌の人や高齢者にも適しており、リラックス効果と美肌効果を兼ね備えています。

美人の湯 2:ー炭酸水素塩泉(重曹泉)ー

  • 「美人の湯」の代表格です。ナトリウム‐炭酸水素塩泉が多く、皮脂や角質の汚れを乳化して落としやすくするため、入浴後は石鹸で洗ったように肌が清浄になります。毛穴の汚れ除去やにきび予防にも有効です。

美人の湯 3:ー硫黄泉ー

  • 硫黄成分を含み、特有の匂いがあります。角質軟化作用やメラニン生成抑制作用があるため、美白効果やしみ・くすみ改善が期待できます。また殺菌作用が強く、皮膚病や湿疹にも効果的です。一方硫黄泉は皮膚疾患改善や美肌効果を期待できる泉質ですが、肌が弱い人にとっては刺激が強いため、長湯は避けるべきです。短時間で切り上げ、入浴後は必ず保湿を行うことが推奨されます。
  • 短時間入浴を基本に
    → 最初は5〜10分程度にとどめ、様子を見ながら調整。
  • 入浴後の保湿ケア
    → 入浴直後に化粧水や保湿クリームで水分・油分を補う。

美人の湯 4:ー硫酸塩泉ー

  • カルシウムやナトリウムを含み、皮膚表面に保護膜をつくるように作用します。湯上がり後も肌のしっとり感が続くことから「保湿の湯」とも呼ばれ、美肌や乾燥肌改善に有効です。

美人の湯とされる条件

  • アルカリ性温泉(pH8.0以上):角質除去作用
  • 炭酸水素塩泉:洗浄・清浄効果
  • 硫黄泉:角質軟化・美白効果
  • 硫酸塩泉:保湿効果

メタケイ酸が多い温泉は「美人の湯」

ーメタケイ酸とは ― 温泉を支える美肌成分ー

メタケイ酸(H₂SiO₃)は、温泉水に溶け込むシリカの一種で、温泉の泉質名ではなく、温泉分析書に記載される成分のひとつ 無色・無味・無臭です。

地下の岩石からシリカ鉱物が溶け出すことで生じ、温泉分析表には「遊離二酸化ケイ素(メタケイ酸として)」と記載されます。

メタケイ酸 ー療養泉の基準ー

  • 温泉法では、メタケイ酸を 50mg/kg以上 含む場合に「療養泉」として認めています。特に100mg/kgを超える温泉は「美人の湯」として知られ、全国的にも人気があります。200mg/kg以上を含む泉は希少で、とろみのある柔らかい湯ざわりを感じられるのが特徴です。

メタケイ酸 ー美容・健康効果ー

  • メタケイ酸は肌に吸着して水分を保持し、しっとりとした感触を与えます。角質のターンオーバーを整える働きもあり、乾燥肌や敏感肌の改善に役立つと考えられています。また、ケイ素はコラーゲンやエラスチンの合成に関与するため、皮膚や血管、骨の健康にも関わっています。入浴による保湿作用が中心ですが、飲泉では粘膜保護や結合組織の代謝サポートに働く可能性が報告されています。

メタケイ酸 ー抗酸化との関わりー

  • メタケイ酸自体が直接活性酸素を消去するわけではありません。しかし、皮膚バリアを強化し細胞環境を整えることで、酸化ストレスから体を守る間接的な働きを持っています。一部の研究では、シリカを含む水がアルミニウムの体内蓄積を減らし、神経疾患リスクを下げる可能性も示されています。

メタケイ酸は泉質名ではなく温泉成分の一つですが、

  • 50mg/kg以上で療養泉の基準
  • 美肌・保湿作用の中心成分
  • 骨・結合組織の代謝サポート
  • 間接的に酸化ストレスを抑える働き

といった特徴を持ちます。温泉の「柔らかくしっとりする湯ざわり」をつくる成分であり、「美人の湯」と呼ばれる温泉の魅力を科学的に裏づける要素となっています。

飲泉の正しい方法 ― 空腹時にゆっくり飲む理由

温泉を飲む「飲泉」は、消化器系や代謝機能を整える伝統的な温泉療法です。その効果を最大限に引き出すためには、空腹時に、噛むようにゆっくり飲むこと が重要とされています。

ー空腹時に飲むメリットー

  • 食べ物が胃にない状態では、温泉水が直接胃粘膜に届きやすく、成分の吸収もスムーズに行われます。炭酸水素塩泉(重曹泉)のように胃酸を中和する泉質や、炭酸泉のように胃酸分泌を促す泉質は、空腹時に飲むことで本来の作用をより発揮できます。
  • 飲泉と胃への作用                                      温泉を飲む「飲泉」は、消化器系の働きを整える伝統的な療法です。特に胃に対しては、泉質ごとの作用の違いが大きく、適切に取り入れることで消化機能や粘膜の保護に役立ちます。
  • 胃酸とのバランス調整                                              炭酸水素塩泉(重曹泉)は、強い酸性を持つ胃酸を中和し、胃粘膜を守ります。そのため、胃酸過多や逆流性食道炎、慢性胃炎の改善に効果的とされます。一方、炭酸泉は胃酸分泌を促進する働きがあり、食欲不振や消化不良に悩む人に適しています。
  • 胃粘膜を守る作用                                                       温泉水に含まれるナトリウムやカルシウム、硫酸塩などの成分は、胃粘膜に働きかけて粘液の分泌を助け、胃壁を保護します。これにより炎症が抑えられ、慢性胃炎や潰瘍の予防や補助的な改善につながります。
  • 胃運動と消化機能の改善                                              炭酸ガスを含む温泉水は胃の血流を良くし、蠕動運動を促進します。これにより食べ物の消化や移送がスムーズになり、胃もたれや消化不良の軽減に効果があります。
  • 自律神経との関わり                                                  胃の働きは自律神経に強く支配されています。空腹時に噛むようにゆっくり飲泉することで副交感神経が優位になり、消化活動が自然に高まります。一方、一気飲みは交感神経を刺激し、かえって胃に負担をかけることがあります。

ー噛むようにゆっくり飲む理由ー

  • 一気に飲み込むのではなく、口に含んで唾液と混ぜながら咀嚼するようにゆっくり飲むと、消化が始まり胃腸への負担が軽くなります。また、急激なpH変化による胃粘膜への刺激を避けられるため、成分がやさしく体に作用します。さらに、落ち着いた動作で飲むこと自体がリラックス効果をもたらし、自律神経の安定にもつながります。

ー実践ポイントー

  • 飲泉は1回100〜200mL程度を目安に、1日2〜3回(朝起床時や食前、就寝前など)に分けて行うのが一般的です。源泉の温度そのままの30〜40℃程度が理想とされ、コップに注いで少量ずつ口に含み、噛むようにしてから飲み込むと効果的です。

現代の温泉で飲泉が少ない理由

現在の日本では、温泉施設で「飲泉」を積極的に勧める例は多くありません。その一番の理由は、温泉資源の利用と衛生管理が法律によって厳しく規制されているためです。

ー循環ろ過と塩素消毒の義務ー

  • 現代の温泉施設の約7割は、衛生面や資源保護の観点から 循環ろ過方式 を採用しています。この方法では、一度浴槽に入ったお湯を再び取り込み、ろ過装置で不純物を除去し、加熱や塩素消毒を行ったうえで浴槽に戻します。レジオネラ菌や大腸菌群の繁殖を防ぎ、限られた源泉を有効に使えるため、安全性と持続利用の点で大きな利点があります。しかし、この循環湯は 飲泉には適さない という明確な制約があります。理由は主に3つです。
  • 法規制と衛生管理
     公衆浴場法や自治体条例では、循環湯はあくまで「入浴用」と規定され、飲泉は許可を得た専用の飲泉口からのみ可能とされています。定期的な水質検査(大腸菌群や有害成分の基準値確認)が必須であり、一般浴槽水は対象外です。
  • 塩素消毒の影響
     循環湯には次亜塩素酸ナトリウムが加えられます。殺菌には有効ですが、飲用すると胃腸粘膜を刺激し、酸化ストレスや腸内環境への悪影響を及ぼす可能性があるため飲泉不可です。
  • 温泉成分の変質
     ろ過や酸化によって硫黄、鉄、メタケイ酸といった温泉固有の有効成分が失われます。これにより、飲泉による本来の薬理的な効能が期待できなくなります。

ー飲泉の許可制度ー

  • 飲泉を行うには、保健所の検査を受けて「飲泉許可」を取得しなければなりません。水質検査では、大腸菌群や細菌数の基準、有害成分(ヒ素・鉛・硫化水素など)の含有量が厳しくチェックされます。この基準をクリアし、さらに専用の飲泉口を設ける必要があるため、多くの温泉地では管理コストが高く、導入は難しいのが現状です
  • 許可取得まで1年以上かかる場合もある

ー湯の鮮度が命ー

  • 飲泉において「湯の鮮度が命」といわれるのは、温泉に含まれる有効成分が時間の経過とともに失われるからです。二酸化炭素・硫化水素・鉄イオン・水素などの成分は湧き出た瞬間にこそ最大の効能を発揮します。飲泉は、源泉から直接、鮮度の高い状態で、少量ずつゆっくり味わうことが最も効果的なのです。

ー飲泉に力を入れる代表的な温泉地ー

  • 日本には古くから「飲んで効く」文化も受け継がれています。現在でも積極的に飲泉を推奨する温泉地があり、その代表例が 四万温泉(群馬)・俵山温泉(山口)・長湯温泉(大分) です。
  • 四万温泉(群馬県)                                            「四万の病を癒やす」といわれるほど古くから湯治文化が根付いた温泉です。泉質はナトリウム・カルシウム-塩化物・硫酸塩泉で、温泉街には飲泉所が設けられています。飲泉により胃酸過多や慢性胃炎の改善、肝機能や胆のうの働きを助ける効果が期待されます。
  • 俵山温泉(山口県)                                                     観光地色よりも「湯治場」としての性格が強く残る温泉です。泉質はアルカリ性単純温泉で刺激が少なく、長期滞在して入浴と飲泉を組み合わせる療養スタイルが受け継がれています。飲泉は消化器疾患や便秘の改善、新陳代謝促進、体質改善に役立つとされます。
  • 長湯温泉(大分県)                                               日本一の炭酸泉として知られる温泉で、飲泉文化を医学的に発展させている点が特徴です。泉質は含二酸化炭素・炭酸水素塩泉で、飲泉により胃酸分泌促進、食欲増進、血流改善、肝胆道系の働きサポートが期待されます。ドイツの炭酸泉療法に学び「飲む・浸かる・吸う」を組み合わせた本格的な温泉療法が行われています。

四万温泉・俵山温泉・長湯温泉以外にも、日本には「飲泉文化」を大切にしている温泉地があります。

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