近くにスマートフォンがあるだけで、親密さや信頼の形成が阻害される
1. 実証研究:スマートフォンの存在が対人関係に与える影響
代表的な研究として、アメリカの心理学者 Andrew K. Przybylski らの2013年の実験があります。
- 実験内容:参加者を2人1組にして、知らない者同士が「スマートフォンがテーブルにある状況」と「ノートや財布などの無害な物がある状況」で会話をしてもらった。
- 結果:
- スマートフォンがある状況では、会話の共感度、信頼、親密さの評価がいずれも有意に低下。
- 特に「深い話題」(人生、感情など)になるほどその影響が大きかった。
2. なぜ「あるだけ」で影響が出るのか?
注意資源の分散
- 人間の注意は有限です。
- スマートフォンが視界に入るだけで「通知が来るかも」「いつでも中断されるかも」という潜在的な注意分散が発生します。
- これは「認知的負荷を増やし、相手への集中力や共感を弱めます。
社会的シグナルの誤解
- スマートフォンが見えると、相手は「この人は会話よりも他のことに気が向いているかもしれない」と無意識に感じます。
- その結果、相互信頼や心の開示が起こりにくくなります。
「常時接続社会」の象徴
- スマートフォンは、「外部との接続・SNS・他者からの評価」など現代的ストレスの象徴です。
- 無意識に「評価される空間」というプレッシャーを感じることで、本音のやりとりが減り、親密な雰囲気になりにくくなります。
3. 特に影響が大きい場面
- 初対面の相手との会話
- 深い信頼関係を築こうとする場(デート、カウンセリング、面談)
- 感情的な共有が必要な状況(悩み相談、葛藤の解決)
4. 対策:信頼関係を築きたいなら
- 会話中は携帯をポケットやバッグにしまう(見えない場所)
- 通知をオフにする、機内モードにする
- 相手と話すときは意図的に「スマートフォンを手放す」ことを非言語のメッセージとして使う
見知らぬ人に対するスマートフォンの
初対面では非言語的手がかりが重要
見知らぬ人と関係を築くとき、私たちは以下のような非言語的サイン(ノンバーバルキュー)に非常に敏感になります。
- 相手がどれだけ自分に注意を向けているか
- 会話にどれだけ真剣に関与しているか
- 安心して話してよい相手かどうか
ここにスマートフォンの存在が割り込むと、以下のような“無言のノイズ”を生み出します:
「この人は今、私ではなくスマートフォンや外の世界に意識があるのでは?」
「話してもどうせ中断されるのでは?」
結果として、心を開く準備ができにくくなるのです。
相互信頼の初期構築が難しくなる
見知らぬ人との信頼関係は、以下のプロセスで徐々に形成されます:
- 相手に注意を向ける
- 反応や表情を見て共感や安心感を得る
- 少しずつ情報を開示し合う(自己開示)
- それを肯定的に受け止めてもらうことで信頼感が形成される
しかし、スマートフォンが近くにあるだけで、注意・共感・受容がすべて弱まるため、上記プロセスが最初の段階でつまずきやすくなります。
心理的距離が縮まりにくい
初対面の相手にとって「親密になる」とは、「この人となら、少し近い関係になっても大丈夫」と思わせることです。
スマートフォンは以下のように心理的距離を広げる要因となります:
- 相手の注意が分散している=「自分はこの場で重要な存在ではない」
- 常時接続状態の象徴=「この人は目の前の会話より、他の世界に属している」
- スマホの存在=「すぐに中断されるかもしれない」という予期不安
これにより、心の壁が取り払われにくくなるのです。
実験例:
- 参加者:見知らぬ者同士でペアを組む
- 設定:テーブル上にスマホ(オフの状態)or 書籍を置く
- 内容:親密なトピックについて話し合ってもらう(家族、将来など)
- 結果:
- スマートフォンがあるときは、信頼・共感・親密度の自己評価が低下。
- 相手に対して「理解されている」と感じにくくなった。
要点のまとめ
項目 | 見知らぬ人への影響 |
---|---|
注意分散 | 相手に集中できず「気が散っている」印象を与える |
共感の低下 | 表情・言葉への反応が鈍くなり、共感が伝わらない |
心理的距離 | 「安心して話せる相手ではない」と無意識に判断される |
自己開示の抑制 | 相手がスマホを気にしていると感じた時点で話しにくくなる |
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