スキマバイトとは?
近年注目を集めている「スキマバイト」は、スマートフォンのアプリを通じて、1日単位や数時間単位で働けるアルバイトのことです。従来のように週数日以上のシフトに縛られる必要がなく、空いた時間に仕事を入れられるのが大きな特徴です。アプリ上で仕事を探してその場で応募、履歴書や面接は不要で、勤務終了後すぐに報酬を受け取れるケースも多く、学生や副業希望者、主婦やシニア層に広がっています。
ースキマバイトが広がる背景ー
背景には「副業解禁やフリーランスの増加による働き方の多様化」「人手不足が深刻な飲食・物流・小売業界の需要」「アプリで即応募・即給与が可能になった技術革新」などがあります。コロナ禍でシフトが減った人たちが単発労働に流れたことも普及を後押ししました。
雇用の形の違い 賃金を誰が払うのか?
スキマバイトは「労働者派遣」ではなく「職業紹介」にあたります。労働者派遣の場合、雇用主は派遣会社であり、派遣先で働いたとしても給料を支払うのは派遣会社です。これに対して職業紹介の場合、雇用主は紹介先の企業であり、賃金を支払う責任もその企業にあります。スキマバイトもこの職業紹介の形態を取るため、雇用主はアプリ運営会社ではなく、実際に働いた店舗や企業となります。
ところが現実には、アプリ運営会社が労働者に直接給料を振り込むケースが多く見られます。他人が雇い主に代わって賃金を支払う行為は、原則として労働基準法上違法とされます。そこで問題となるのが、アプリ会社が行う「立て替え払い」の扱いです。
- 派遣の場合
- 派遣会社が雇い主。
- 給料を払うのは派遣会社。
- 働く場所(派遣先)は別の会社。
- 職業紹介の場合(スキマバイトはこちら)
- 雇い主は紹介先(働き先の企業)。
- 給料を払うのも本来はその企業の責任。
- アプリ会社は「紹介」だけをしている。
- つまり、スキマバイトでは 「雇い主はアプリ会社ではなく働き先の企業」 です。 本来は「働き先の企業」が賃金を払うべきですが、実際には「アプリ業者が直接労働者に振り込む」ケースが多いです。
- これが問題になるのは、他人(アプリ会社)が雇い主の代わりに給料を払うのは原則違法 とされているからです。
他人(アプリ会社)が雇い主の代わりに給料を払うのは原則違法
厚生労働省は、この点について明確な見解を示しています。すなわち、アプリ会社が本来は働き先企業が支払うべき賃金を、一時的に労働者へ立て替えて支払うだけであれば適法である、というものです。ただし、この場合でも賃金を支払う最終的な義務はあくまで雇い主である企業に残っており、その責任が免除されることはありません。
つまり、スキマバイトにおいては「雇用主=働き先企業」という原則は変わらず、アプリ会社は単に給与の前払いをサポートする存在に過ぎません。もしアプリ会社が雇用主のように振る舞い、最終的な賃金支払責任まで引き受ける形になれば、偽装請負や違法派遣と見なされる恐れがあるのです。
利用者にとっては、雇用契約書に記載されている雇用主の名義や、給与明細に示される企業名を確認することが、自らの労働者としての権利を守る上で重要です。
- アプリ会社が「本来は企業が払うべき給料」を 一時的に立て替えて払うだけなら適法。
- ただし大前提として、賃金を払う最終責任は働き先企業にある。
- つまり、アプリ会社は「先に払ってあげて、後で企業から回収する」仕組みであれば問題なし。
- 逆に、もしアプリ会社が「雇い主のように振る舞い、賃金も最終的に自分の責任で払っている」場合は、偽装請負や違法派遣と見なされる恐れがあります。
スキマバイトはこの境界線が非常にあいまい
- ースキマバイトと日雇い派遣の違い、そしてグレーゾーンの問題ー
スキマバイトはこの境界線が非常にあいまいで、厚労省も「脱法的な仕組みになっていないか」を注視している。
スキマバイトは「職業紹介」に分類されます。アプリ運営会社は求職者と求人企業をマッチングする役割を担うだけで、雇用主はあくまで働き先企業です。この仕組みでは、1日単位の雇用契約も可能であり、法律上の日雇い派遣の禁止規制は直接は及びません。つまり「日雇い紹介」という形式であるため、スキマバイトは一日ごとの就労が認められています。
しかし、ここにはグレーゾーンが存在します。実際には、アプリ会社が労働者に直接給与を振り込んだり、シフト管理や評価に深く関与しているケースがあります。さらに、同じ企業に労働者を繰り返し送り込む状況では、形式上は職業紹介であっても「実態は派遣ではないか」と疑われる可能性が生じます。
労働者派遣法では、日雇い派遣は原則として禁止
労働者派遣法では、日雇い派遣は原則として禁止されています。これは、労働者が不安定な就業を繰り返すことで、生活の安定が損なわれたり、労務管理や安全配慮が十分に行われない危険があるためです。
ただし、以下のような例外的なケースでは日雇い派遣が認められています。
- 60歳以上の高齢者
- 昼間学生
- 年収500万円以上の人
- 世帯年収500万円以上の主たる生計者でない人
- 例外業務(ソフトウェア開発、研究開発、翻訳・通訳、秘書業務など)
このように、労働者保護の観点から日雇い派遣は厳しく制限されているのです。
スキマバイトが労働者派遣と判断されれば、アプリ会社は派遣会社としての法的義務を負います。その場合、週20時間以上・31日以上の雇用見込みがある労働者については健康保険・厚生年金・雇用保険への加入義務が発生します。また、派遣会社にはマージン率(派遣料金と労働者賃金の差額の割合)を公開する義務があり、労働者は自らの賃金が派遣料金のうちどれほどの割合を占めるのかを確認できるようになります。加えて、派遣期間の制限や均等待遇のルールなど、派遣法上のさまざまな規制が適用されます。
つまり、スキマバイトは「日雇い紹介」であるため日雇い派遣禁止の対象外ですが、継続的な就労やアプリ会社の関与の度合いによっては「脱法的ではないか」と疑われる領域に入り込む危険性を抱えています。そして実態が派遣と認定されれば、アプリ業者は派遣会社と同じ社会保険加入義務やマージン率公開義務を果たさなければならなくなるのです。
労働者派遣・スキマバイト・アプリ業者の責任の違い
- 労働者派遣:雇用主は派遣会社。賃金・保険・雇用契約などの責任は派遣会社にある。
- スキマバイト:雇用主は働き先企業。賃金支払いや社会保険加入の責任は企業にある。
- アプリ業者:職業紹介事業者として、求人情報の正確性や法令遵守の確認など紹介業務に関する責任を負う。
ー1. 労働者派遣の雇用責任は派遣会社にあるー
労働者派遣では、雇用主は派遣会社です。派遣労働者は派遣会社と雇用契約を結び、派遣先企業で指揮命令を受けて働きます。このため、賃金を支払う義務や社会保険の加入手続き、労働条件の明示、安全管理など、雇用主としての責任はすべて派遣会社にあります。加えて、派遣会社にはマージン率(派遣料金と賃金の差)の公開義務も課されています。
派遣会社は労働者に対して以下の義務を負います。
- 雇用契約の締結:派遣労働者と派遣会社の間で雇用契約を結ぶ。
- 賃金の支払い:賃金を支払う義務は派遣会社にある(派遣先企業にはない)。
- 社会保険・労働保険の加入:条件を満たせば派遣会社が加入手続きを行う。
- 労働条件通知・管理:就業条件明示、労働時間管理、安全配慮義務を担う。
- マージン率公開義務:派遣会社は毎年度、派遣料金と賃金の差額割合を公開しなければならない。
ー2. スキマバイトの雇用責任は働き先企業にあるー
一方で、スキマバイトは「職業紹介」に分類されます。そのため、雇用主はアプリ業者ではなく、実際に働く企業や店舗です。労働契約の締結や賃金の支払い義務、条件によっては社会保険への加入といった責任は、働き先企業が負います。アプリが労働者に直接給与を振り込むケースもありますが、厚生労働省はこれは「立て替え払い」と整理しており、最終的な賃金支払いの責任は働き先企業に残るとしています。
雇用主である企業が負う責任は以下のとおりです。
- 雇用契約の締結:労働者と直接雇用契約を結ぶ。
- 賃金の支払い義務:本来の賃金支払責任は働き先企業にある。
- 社会保険の加入義務:一定の労働条件を満たせば、企業が保険加入手続きを行う。
- 労働条件の明示・遵守:労働基準法に基づき就業条件を明示し、労務管理を行う。
ー3. アプリ業者は「職業紹介事業者」としての責任を負うー
スキマバイトの運営会社は、雇用主ではありません。法的には「職業紹介事業者」として、職業安定法に基づく義務を果たす必要があります。具体的には、厚生労働大臣の許可を得ること、求人条件を正確に求職者へ伝えること、求人企業が労働法令を遵守しているかを確認すること、苦情処理体制を整えることなどが求められます。つまり、アプリ業者は労働者を雇う責任ではなく、適切で透明なマッチングを提供する責任を担っています。
主な義務は次の通りです。
- 職業紹介事業の許可:有料職業紹介を行う場合、厚生労働大臣の許可が必要。
- 求職者への情報提供義務:求人内容(労働条件・賃金・契約期間など)を正確に提示する。
- 求人者への確認義務:求人企業が労働関係法令を遵守しているか確認する。
- 手数料の明示:求職者に紹介手数料を徴収する場合はその金額・計算方法を明示(ただし多くのスキマバイトアプリは企業側からの利用料で運営)。
- 労働条件の明示サポート:紹介時に求人票や労働条件通知書の内容を求職者に伝える。
- 苦情処理体制の整備:トラブルや不利益が生じた際に相談窓口を設ける義務。
タイミーは「職業紹介」の枠を超えた新しい仕組み
通常の職業紹介業者は、求職者と求人企業をマッチングさせるだけで、雇用契約の締結や勤怠管理、給与計算・支払いといった労務管理には直接関わりません。あくまで紹介であり、その後は企業と労働者が直接やり取りするのが基本です。
ところが、スキマバイトアプリ「タイミー」はここに独自の仕組みを導入しています。
ー1. 雇用契約ー
労働契約そのものは従来通り「働き先企業」と労働者の間で結ばれます。しかし、タイミーはアプリ上で契約手続きを簡略化し、利用者がスムーズに就労できるようにしています。
ー2. 勤怠管理ー
勤務開始・終了はアプリ上のQRコードを読み込む形で記録されます。従来は企業が紙やタイムカードで行っていた勤怠管理を、タイミーがシステムとして代行する仕組みです。
ー3. 給与計算・給与支払いー
通常、賃金の計算や支払いは雇用主である企業が行います。しかしタイミーでは、アプリ側が働き先企業に代わって給与の計算・支払いまで担うケースが多く、利用者は勤務終了後すぐにアプリから給与を受け取れる仕組みになっています。
この「給与の立て替え払い」は本来、職業紹介業者が直接担うことは想定されていません。他人が雇い主に代わって給与を支払う行為は原則違法とされるため、制度設計上の大きな争点となっていました。
ー東京労働局の見解ー
厚生労働省(東京労働局)は、タイミーの仕組みについて以下のように整理しています。
- 雇用主はあくまで働き先企業であり、賃金支払いの最終責任もその企業にある。
- タイミーが行う給与支払いは「立て替え払い」として扱われる限り、違法ではない。
- したがって、労働基準法や職業安定法上も「職業紹介事業者」としての枠内で適法に運営されている。
つまり、タイミーは従来の職業紹介の範囲を超えた機能を提供していますが、雇用責任の所在を明確にしていることから、東京労働局もそのサービスを合法と認めているということです。
スキマバイトにおけるキャンセルと賃金請求の権利
スキマバイトのマッチング後にキャンセルが発生した場合、労働者が賃金を請求できる
マッチング後に仕事がキャンセルされた場合、労働者がどこまで賃金を請求できるのかについては誤解が少なくありません。
一部のアプリでは「QRコードを読み込んだ時点から賃金請求権が発生する」といった説明が見られます。ですが、法律上これは誤りです。賃金請求の根拠となるのはアプリの操作ではなく、労働契約の成立そのものです。つまり、契約が成立していれば実際に働いていなくても、使用者の都合で仕事がなくなった場合には賃金請求権が発生します。
労働基準法では、労働者が働く準備を整えていたにもかかわらず、使用者の事情で就労できなかった場合には賃金や休業手当の支払い義務が生じます。これをスキマバイトに当てはめると、次のように整理できます。
- 前日または当日にキャンセルされた場合
労働者は全額の賃金(100%)を請求することができます。 - 3日前までにキャンセルされた場合
労働契約成立後の解約にあたり、労働者は賃金の6割程度を請求できるとされています。
このように、スキマバイトであっても、キャンセルの時期に応じて労働者には賃金請求の権利が認められています。重要なのは「QRコードを読み込んだかどうか」ではなく、労働契約が成立していたかどうかです。
スキマバイトは気軽に働ける一方で、こうした労働契約と賃金請求のルールを正しく理解しておくことが、トラブルを防ぎ、自分の権利を守るうえで欠かせません。
スキマバイトで求人内容と異なる仕事を命じられた場合の対応と賃金請求
スキマバイトは単発や短時間の就労であっても、求人票に記載された条件をもとに労働契約が成立しています。そのため、求人に明記された仕事の内容は契約の一部であり、使用者(働き先企業)はこれを守る義務があります。
ところが、実際の現場で求人票に書かれていた業務とは異なる仕事を命じられることがあります。例えば「接客」と記載されていたのに倉庫での重労働をさせられる、あるいは「仕分け作業」のはずが清掃業務を強いられる、といったケースです。これは契約内容に反する行為であり、労働者にはその仕事を拒否する正当な権利があります。
ここで重要なのは、拒否した場合でも賃金請求が可能だという点です。労働者が現場に赴き、就労の準備を整えていた以上、「労務を提供する意思と能力」はあったと評価されます。仕事をさせなかった責任は使用者側にあるため、労働基準法第26条の「休業手当」の考え方が適用されます。その結果、労働者は 賃金の全額、あるいは少なくとも6割以上 を請求できるのです。
実際にトラブルを避けるためには、求人票やアプリに掲載された募集要項を保存しておくことが有効です。また、その場で拒否する際には「求人内容と異なるため従事できません」と理由を明確に伝えることが望ましいでしょう。さらに、アプリ運営会社に報告しておけば、虚偽求人の是正や再発防止にもつながります。
スキマバイトと労働時間 ― QRコード前の準備は労働時間に含まれるのか
スキマバイトでは、勤務開始時にアプリでQRコードを読み込むことで「出勤」とされる仕組みが一般的です。しかし実際の現場では、QRコードを読み込む前に制服に着替えたり、エプロンを装着したり、衛生チェックを受けたりといった準備作業を行うことが少なくありません。この「準備の時間」は労働時間に含まれるのでしょうか。
労働基準法における労働時間とは、単に作業をしている時間だけではありません。労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間すべてを指します。裁判例や厚労省の通達でも、事業所内で義務づけられた制服の着替え、安全靴や保護具の装着、点呼やアルコールチェックといった行為は労働時間に算入すべきものとされています。
この考え方をスキマバイトに当てはめると、QRコード読み込み前の準備も、労働者の自由な時間ではなく、実質的に企業の指示に従って行う拘束時間であるため、本来は労働時間に含まれるべきです。ところが、実務上は「QRコードを読み込んだ時点からが労働時間」とされることが多く、その分の賃金が支払われないケースも見られます。これは法律上、賃金不払いにあたる可能性が高いといえます。
労働者としては、求人票や契約条件に「着替え時間を労働時間に含まない」といった不当な記載がないかを確認すること、実際の到着時刻や準備開始時刻を記録しておくことが重要です。不払いが続く場合には、アプリ運営会社に報告したり、労働基準監督署に相談して是正を求めることも有効です。
スキマバイトは予定より早く終わっても賃金請求が可能
スキマバイトは短時間・単発で働ける点が特徴ですが、勤務予定より早く終わることも少なくありません。たとえば店舗の客入りが予想より少なかったり、作業が思ったより早く終わったといったケースです。このような場合、労働者は予定されていた時間分の賃金を請求できるのでしょうか。
法律の立場は明確です。雇い主の都合で勤務時間が短縮された場合、労働者には予定されていた労働時間分の賃金を全額請求する権利がある、というものです。これは労働基準法第26条の「休業手当」の考え方に基づきます。同条では、使用者の責任によって労働者を休業させた場合、平均賃金の60%以上を支払わなければならないと規定されています。
もっとも、スキマバイトの求人は「13時〜18時、時給1,200円」といったように具体的な時間と条件を示して契約が成立しています。労働者はその時間を提供する用意を整えて現場に出勤しており、業務を早く切り上げる判断をしたのは雇い主側です。そのため、60%ではなく契約通りの100%の賃金を支払うのが原則となります。
一方、労働者が自分の都合で早退した場合は「労働者都合」であり、その分の賃金は支払われません。また、天災や不可抗力で営業が不可能となった場合は、必ずしも全額支払い義務が生じるわけではありませんが、それでも休業手当として6割以上の補償が必要です。
重要なのは、アプリや企業が「早く終わった場合は働いた分だけ支給」といった規約を設けていたとしても、これは労働基準法に反する部分については無効になるという点です。法律が優先されるため、労働者は予定された労働時間分の賃金を正当に請求することができます。
スキマバイトでも労災申請はできるのか
スキマバイトは「1日だけ」「数時間だけ」といった短期・単発の就労スタイルですが、法律上は立派な労働契約に基づいて働くことになります。そのため、正社員やパートと同じように 労災保険(労働者災害補償保険)の対象 となり、勤務中や通勤中にケガや病気をした場合には労災申請を行うことができます。
労災保険は、雇用形態にかかわらずすべての労働者を対象としており、1日だけのアルバイトやスキマバイトであっても例外ではありません。
ー雇用主は誰かー
スキマバイトは「職業紹介」に分類されるため、アプリ運営会社が雇用主になるのではなく、実際に働いた企業や店舗が雇用主となります。したがって、労災申請の責任や手続きを行うのはアプリ業者ではなく、働き先の企業です。
スキマバイトでも通勤中の労災は申請できる
スキマバイトは1日単位や数時間だけの短期就労が多いため、「正社員や長期アルバイトのように労災保険は適用されないのでは」と誤解されることがあります。しかし実際には、スキマバイトであっても労働契約を結んだ時点で法律上の「労働者」となり、労災保険の対象に含まれます。これは業務中のケガだけでなく、通勤中の事故やケガも補償の対象になります。
ー通勤災害とは何かー
労災保険は「業務災害」と「通勤災害」に分けられます。業務災害は仕事中に起きたケガや病気を指し、通勤災害は自宅と職場の往復中に合理的な経路・方法で発生した事故を指します。電車や自転車での移動中の交通事故、徒歩での転倒事故などが典型例です。
ースキマバイトでも対象になる理由ー
労災保険は雇用形態を問わず、すべての労働者に適用される仕組みです。1日だけの勤務や数時間だけの契約であっても、その間は労働者としての地位があり、労災保険が適用されます。したがって、スキマバイト先へ向かう途中や勤務終了後に自宅へ帰る途中の事故も、法律上は通勤災害として申請できます。
ー通勤災害が認められる条件ー
通勤災害として労災が認められるには、以下の条件が必要です。
- 就業に直接必要な通勤であること
- 合理的な経路と方法であること
- 途中で大きな寄り道や私用による中断がないこと(ただし日用品の購入など生活上やむを得ない寄り道は認められる場合がある)
ー労災申請の流れー
- 通勤途中で事故に遭ったら、まず医療機関で診察を受ける
- 勤務先の企業に「労災申請をしたい」と申し出る
- 通勤災害用の労災保険請求書を作成し、勤務先の証明を受けて労働基準監督署へ提出
- 認定されれば、治療費や休業補償給付(給与の約8割)が支給される
スキマバイト日雇いでも社会保険制度はある
スキマバイトは1日単位や数時間単位の短期労働が多いため、「日雇いだと社会保険は対象外なのでは」と思われがちです。しかし実際には、日雇い労働者にも適用される社会保険制度が存在し、労働者の生活や健康を守る仕組みが整えられています。
ー労災保険は必ず適用ー
労災保険は、雇用形態にかかわらずすべての労働者に強制的に適用されます。スキマバイトで1日だけ働いた場合でも、仕事中や通勤中に起きたケガや病気は労災保険の対象となり、治療費や休業補償を受けることができます。
ー雇用保険には日雇い特例制度があるー
通常の雇用保険は「31日以上の雇用見込み」「週20時間以上勤務」が条件ですが、日雇い労働者向けに「日雇労働被保険者制度」が設けられています。この制度では、1日単位の契約であっても保険加入が可能で、日額の失業手当や傷病手当などが支給される仕組みになっています。
ー健康保険・厚生年金も日雇特例制度でカバーー
健康保険や厚生年金についても「日雇特例被保険者制度」があります。この制度を利用すると、1日ごとに保険料を納めることで医療費の自己負担が軽減され、将来的には老齢年金や障害年金、遺族年金の受給対象にもなります。もともとは建設業や港湾労働といった日雇い労働が多い分野のために整備された制度ですが、スキマバイトのような短期労働でも要件を満たせば利用可能です。
ー実務上の課題ー
スキマバイトは「職業紹介」にあたるため、社会保険に関する義務を負うのはアプリ業者ではなく実際に働く企業です。しかし、日雇い特例制度を積極的に活用している企業はまだ多くはなく、実際には労災保険は確実に適用されるものの、雇用保険や日雇特例健康保険の利用は限定的なのが現状です。
スキマバイトでトラブルが起きたときの行政機関への相談先
スキマバイトは気軽に働ける反面、給与の未払い、一方的なキャンセル、求人内容と実際の業務の不一致、労災の拒否といったトラブルが起きやすい働き方でもあります。こうした場合に頼れるのが行政機関の相談窓口です。ここでは主な窓口と役割を整理します。
ー労働基準監督署(労基署)ー
労基署は厚生労働省の出先機関で、労働基準法や労働安全衛生法を守らせる役割を担っています。
賃金の未払い、残業代の不払い、過重労働、労災申請の拒否といった問題がある場合には、労基署に相談するのが最優先です。調査や是正勧告といった強制力を持つ対応が期待できます。
ー都道府県労働局「総合労働相談コーナー」ー
各都道府県の労働局には「総合労働相談コーナー」が設置されており、労働条件やハラスメント、解雇・雇止めなど幅広い相談を受け付けています。相談は無料・匿名・予約不要で可能です。また、労働局が間に入ってトラブルを解決する「あっせん制度」も利用できます。
ーハローワーク(公共職業安定所)ー
ハローワークは職業紹介を担当する行政機関です。スキマバイトのような求人内容に関するトラブル、たとえば「求人票に書かれていた条件と実際が違う」といったケースはハローワークに相談できます。職業紹介事業者であるアプリ運営会社への指導も行うことが可能です。
ー労働委員会ー
労働委員会は労働組合活動への不当な妨害など「不当労働行為」に関する紛争を扱います。スキマバイトでは直接利用することは少ないですが、地域ユニオンや一般労組に加入すれば、団体交渉の場を設けてもらうことができます。
ー法テラス(日本司法支援センター)ー
労基署や労働局で解決できない場合や、裁判・労働審判に発展する可能性がある場合は「法テラス」が有効です。収入が一定以下なら弁護士による無料相談が受けられ、裁判費用の立替制度も利用できます。
- 労基署:賃金不払い・労災拒否など労基法違反に対応。強制力あり。
- 労働局相談コーナー:幅広い労働問題に対応。無料・匿名相談可、あっせん制度あり。
- ハローワーク:求人条件と実際が異なる場合に有効。職業紹介事業者への指導も可能。
- 労働委員会:労組活動に関する不当行為への対応。
- 法テラス:法的解決を目指す場合に利用可能。
スキマバイトのトラブルは、まず勤務先やアプリ運営会社に申し出るのが基本ですが、解決しない場合は行政機関に相談することで法的に守られた権利を行使できます。
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